診療方針
脳神経内科では,脳・脊髄・末梢神経・筋肉の疾患の診療を行います.代表的な疾患は,脳卒中(脳血管障害),パーキンソン病,認知症,頭痛,てんかんですが,当院の救命救急センターには数多くの脳卒中患者さんが搬入されるため,脳卒中の診療実績が多いことが特徴です(⇒症例数・治療実績).救命救急センター内の脳卒中センター(⇒)には6床の脳卒中専用病床(脳卒中ケアユニット:SCU)を設置し,脳神経外科医または脳神経内科医が院内に常駐して脳卒中患者さんの救急搬入を24時間365日受け入れています.
脳神経内科は,脳卒中のうち主に脳梗塞と一過性脳虚血発作の治療を担当し,発症4.5時間以内のrt-PA静注療法(詰まった血栓を溶かす治療)に代表される急性期治療と長期脳卒中再発予防に積極的に取り組んでいます.カテーテルを用いた脳血栓回収療法が必要な場合は,脳神経血管内治療学会専門医(または同専門医に準じる経験を有する脳血栓回収療法実施医)により治療が行われます.rt-PA静注療法は,2005年秋の認可以来400例以上に行い,患者さんの3人に1人は3ヶ月後に障害のない状態に回復しました.また,入院治療後も数日に渡って手足の麻痺が進行する可能性の高い穿通枝梗塞(ラクナ梗塞やbranch atheromatous disease(BAD)型梗塞)に対しては,後遺症を最小限にとどめるように,数種類の抗血栓薬を組み合わせた積極的な急性期治療を行っています.
脳神経内科外来には,頭痛,もの忘れ,手足の脱力・しびれ・ふるえ,めまい・ふらつき,しゃべりにくい,飲み込みにくい,といった症状の患者さんが受診されます.診察所見とともに,血液・髄液検査,CT・MRI・脳血流シンチ・超音波検査などの画像検査,脳波・神経伝導検査・筋電図などの神経生理学的検査を総合して診断・治療しますが,必要に応じて入院精査・治療を行います.
脳卒中再発予防外来
脳卒中になった人は,一度も脳卒中になったことのない人に比べて再び脳卒中になりやすく,10人に1人が発症後1年以内に,4人に1人が5年以内に脳卒中を再発すると言われています.一方,再発を防ぐ治療法も年々発達してきています.それぞれの患者さんの病態に応じた治療を複合的・長期的に行うことにより脳卒中再発は減少すると考えられます.当科では2014年4月から長期再発予防に向けた新たな取り組みを開始し,2015年9月までに入院した脳梗塞または一過性脳虚血発作555人の5年間の追跡調査では,脳卒中再発は6人に1人に減少したことを確認しました(永金義成,田中瑛次郎,他.第63回 日本神経学会学術大会(2022年5月)で発表).
脳梗塞または一過性脳虚血発作で脳神経内科に入院した患者さんは,退院までに再発予防方針を決定し,病状が落ち着いた時期にかかりつけ医へ紹介(かかりつけ医がいない場合は逆紹介)します.発症後1年目には脳卒中再発予防外来で必要な検査を行って再発予防方針を再度見直し,かかりつけ医と情報共有することにより長期に渡る再発予防を目指しています.
症例数・治療実績
(年度) | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 |
年間神経内科入院数 | 561 | 572 | 630 | 640 | 723 | 756 |
脳血管障害 | 420 | 437 | 477 | 468 | 535 | 578 |
脳梗塞・一過性脳虚血発作 | 336 | 345 | 351 | 390 | 410 | 442 |
脳出血・その他の血管障害 | 84 | 92 | 126 | 78 | 125 | 136 |
発作性・機能性疾患(てんかんなど) | 30 | 31 | 33 | 71 | 70 | 81 |
感染性・炎症性疾患 | 16 | 17 | 15 | 10 | 17 | 13 |
末梢神経疾患 | 12 | 20 | 21 | 9 | 9 | 6 |
中枢性脱髄疾患(多発性硬化症など) | 8 | 3 | 10 | 0 | 3 | 2 |
変性疾患(パーキンソン病、脊髄小脳変性症など) | 13 | 20 | 15 | 19 | 16 | 24 |
筋疾患 | 14 | 2 | 7 | 6 | 7 | 9 |
脊椎・脊髄疾患 | 8 | 4 | 3 | 1 | 10 | 5 |
腫瘍性疾患 | 0 | 4 | 1 | 0 | 1 | 1 |
その他(内科疾患に伴う神経疾患など) | 40 | 34 | 48 | 56 | 55 | 37 |
急性期虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作入院患者の治療実績(2017~2019年度)
2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | |
発症7日以内の入院患者数 (同年の再発入院を除く) |
379例 | 371例 | 427例 |
平均年齢 | 76.2 | 76.0 | 75.0 |
入院時重症度*,中央値(四分位) | 3 (1-8) | 3 (1-7) | 3 (1-7) |
平均在院日数 | 23 | 22 | 21 |
日常生活自立**,退院時 | 56% | 59% | 61% |
日常生活自立**,3ヶ月後 | 60% | 64% | 65% |
日常生活自立**,1年後 | 56% | 58% | 64% |
死亡率,入院中 | 4% | 3% | 3% |
死亡率,3ヶ月後 | 5% | 6% | 6% |
死亡率,1年後 | 14% | 15% | 11% |
脳卒中再発率,入院中 | 4% | 3% | 2% |
脳卒中再発率,3ヶ月後 | 5% | 4% | 3% |
脳卒中再発率,1年後 | 8% | 5% | 5% |
* 入院時重症度は,National Institutes of Health Stroke Scaleのスコア.
** 日常生活自立は,modified Rankin Scale 0,1,または2.
臨床研究
臨床現場で得られた知見は,国内の学会や国際学会で発表したり,学術誌に報告したりしています.臨床現場で得られた知見を国内や海外の学会で発表したり,学術雑誌へ論文投稿したりしています.特に,急性期虚血性脳卒中の中でも,いわゆるbranch atheromatous disease(BAD)型梗塞における進行性運動麻痺については,多数例を通して病態解明の研究,各種治療の試行を精力的に行ってきました.ここ数年は,脳卒中再発に関する研究に取り組んでいます.また,脳卒中診療における国内の代表的施設として,下記の通り多くの多施設共同研究や治験に参加しています.
- THAWS2研究
睡眠中発症や発症時刻不明脳梗塞でFLAIR陰性患者に対するアルテプラーゼ静注療法の実臨床のおける安全性と有効性を評価する多施設共同観察研究. -
BAT2研究
抗血栓療法新時代における脳・心血管疾患患者への経口抗血栓薬の使用実態と安全性を解明する多施設共同観察研究. -
KOACSレジストリ
京都地域における経口抗凝固薬服用中の脳卒中患者の多施設共同登録研究. - ATIS-NVAF研究
非弁膜症性心房細動とアテローム血栓症を合併する脳梗塞患者の脳卒中再発予防における最適な抗血栓療法を検討する多施設共同研究.
- FASTEST試験
発症早期の脳内出血患者に対する凝固第VII因子投与の有効性と安全性を検証する国際臨床試験
-
SAFE-ICH研究
頭蓋内出血を発症した心房細動患者の早期抗凝固療法に関する安全性と有用性を検討する多施設共同観察研究 -
ACUTE-PRAS研究
脳梗塞再発リスクの高い急性期アテローム血栓性脳梗塞およびTIA患者に対するプラスグレルとクロピドグレルの比較臨床研究
スタッフ
日本神経学会専門医,日本脳卒中学会専門医を含めて5名の常勤スタッフと4名の脳神経内科専攻医,3名の非常勤スタッフが入院・外来診療を担当しています.日本神経学会教育施設,日本脳卒中学会研修教育施設にそれぞれ認定されており,毎月1~3名の初期研修医が脳神経内科研修を選択し,スタッフ・専攻医とともに主に入院診療を担当しています.
職 名 | 名 前 | 専 門 | 資 格 |
部 長 | ![]() |
臨床神経 脳卒中 |
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医 |
医 長 | 德田 直輝 | 臨床神経 脳卒中 脳血管内治療 |
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医 日本神経学会 神経内科専門医・指導医 日本脳卒中学会 脳卒中専門医・指導医 日本脳神経血管内治療学会 脳神経血管内治療専門医 日本脳神経超音波学会 脳神経超音波検査士 |
医 長 | 山本 敦史 | ||
医 長 | 小椋 史織 | 臨床神経 脳卒中 |
日本内科学会 認定内科医 日本脳卒中学会 専門医 日本神経学会 神経内科専門医 |
医 長 | 前園 恵子 | 臨床神経 脳卒中 |
日本内科学会 認定内科医 日本神経学会 神経内科専門医 |
医 師 | 松浦 啓 | ||
医 師 | 清水 夢基 | ||
医 師 | 松岡 千紘 | ||
医 師 | 小林 史弥 | ||
非常勤医師 | 濱中 正嗣 | ||
非常勤医師 | 岸谷 融 |
外来当番表
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | |
1診 | 松浦(AM) | 永金 | 徳田 | 小椋(AM) | 前園(AM) |
山本(PM) |
岸谷 |
||||
2診 |
脳卒中専門外来 脳卒中再発予防 |
濱中 (脳卒中) (AM) |
脳卒中再発予防(PM) | ||
脳卒中再発予防(PM) |