脳神経内科(神経内科)

診療方針

 脳神経内科は,脳・脊髄・末梢神経・筋肉の疾患の診療を行います.その中でも,当院の救命救急センターに搬入される神経救急患者,特に脳卒中患者を多数診療していることが特徴です(⇒症例数・治療実績).救命救急センター内に設置された脳卒中センター()では,脳卒中診療経験を有する脳神経外科医または脳神経内科医が,夜間・休日も院内に常駐して脳卒中の救急搬入に対応しています.脳神経内科では,超急性期脳梗塞に対する再開通療法とともに長期脳卒中再発予防にも積極的に取り組んでいます.
 外来では,かかりつけ医との連携を推進しており,紹介外来制を原則としています(2021年度地域医療支援病院紹介率59.0%).紹介患者の診断結果は紹介医に報告するとともに,連携医の先生方と共有すべき神経疾患については,釜座脳神経内科勉強会(年1回開催,但し2020年以降はCOVID-19感染対策のため中止)で報告・ディスカッションしています.

急性期脳卒中診療体制

 脳卒中センターでは,脳神経外科と協力して脳卒中診療を行っています.脳神経内科は,すべての虚血性脳卒中(脳梗塞,一過性脳虚血発作)と,保存的治療が適応となる出血性脳卒中(脳内出血)を担当します.年間約400例の急性期脳梗塞診療を行っており,京都府内でも随一の診療実績を有します(⇒症例数・治療実績).発症4.5時間以内のアルテプラーゼ(rt-PA)静注療法は,2005年秋の認可以来400例以上に行い,33%が3ヶ月後に障害のない状態(modified Rankin Scale 0または1)に改善しました.また,近年治療成績が飛躍的に向上したカテーテルを用いた脳血栓回収療法は,脳神経血管内治療学会専門医(または同専門医に準じる経験を有する脳血栓回収療法実施医)である脳神経内科医と脳神経外科医が協同して行っています.
 ラクナ梗塞やbranch atheromatous disease(BAD)型梗塞などの穿通枝梗塞は,急性期に症状が動揺・増悪して重度の運動麻痺が残存することが少なくありませんが,急性期からの抗血小板療法の組み合わせによる強化抗血小板療法が有用である可能性があり(Yamamoto Y, Nagakane Y, et al. Int J Stroke. 9: E8, 2014.),最近ではアルガトロバン,抗血小板薬2剤,スタチンを併用するスタチン併用多剤抗血栓療法(MACS: Multiple Antithrombotic therapy Combined with Statin)を行っています(永金義成,田中瑛次郎,他.BRAIN and NERVE. 70: 557-562, 2018.).

慢性期脳卒中診療体制(脳卒中再発予防外来)

 急性期治療の進歩や回復期リハビリテーションの充実により,脳卒中患者の社会復帰率,在宅復帰率が向上するにつれて,脳卒中再発予防の重要性が増してきました.虚血性脳卒中患者の脳卒中再発率は高く,発症後1年で8~10%,5年で18~34%と報告されていますが,頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術などの外科的治療とともに,危険因子の管理や抗血栓療法などの内科的治療の有効性を示すエビデンスが蓄積されつつあり,こうしたエビデンスに基づいた治療を複合的・長期的に行うことにより脳卒中再発は減少すると予想されます.当科では2014年4月から長期再発予防に向けた取り組みを開始し,2015年9月までに入院した脳梗塞または一過性脳虚血発作555例の5年累積脳卒中再発率が17%に低減したことを確認しました(永金義成,田中瑛次郎,他.第63回 日本神経学会学術大会(2022年5月)で発表).
 当科退院時に最適な再発予防方針がたてられるよう,入院中には徹底した脳卒中再発リスク評価を行い,病状が落ち着いた時期にかかりつけ医へ紹介しますが,当科の脳卒中再発予防外来でもフォローアップさせていただきます.ここでは,脳卒中再発や無症候性脳梗塞・脳出血の確認,危険因子や頭頸部血管病変の再評価,退院時の再発予防方針の見直しを行い,かかりつけ医と連携しながら長期に渡る脳卒中再発予防を目指しています.

症例数・治療実績

 (年度) 2015 2016 2017 2018 2019 2020
年間神経内科入院数 561 572 630 640 723 756
脳血管障害 420 437 477 468 535 578
  脳梗塞・一過性脳虚血発作 336 345 351 390 410 442
  脳出血・その他の血管障害 84 92 126 78 125 136
発作性・機能性疾患(てんかんなど) 30 31 33 71 70 81
感染性・炎症性疾患 16 17 15 10 17 13
末梢神経疾患 12 20 21 9 9 6
中枢性脱髄疾患(多発性硬化症など) 8 3 10 0 3 2
変性疾患(パーキンソン病、脊髄小脳変性症など) 13 20 15 19 16 24
筋疾患 14 2 7 6 7 9
脊椎・脊髄疾患 8 4 3 1 10 5
腫瘍性疾患 0 4 1 0 1 1
その他(内科疾患に伴う神経疾患など) 40 34 48 56 55 37

modified-Rankin-Scale_2022

急性期虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作入院患者の治療実績(2017~2019年度)

  2017年度 2018年度 2019年度
発症7日以内の入院患者数
(同年の再発入院を除く)
379例 371例 427例
平均年齢(歳) 76.2 76.0 75.0
入院時NIHSS,中央値(四分位) 3 (1-8) 3 (1-7) 3 (1-7)
平均在院日数(日) 23 22 21
日常生活自立(mRS 0-2),退院時 56% 59% 61%
日常生活自立(mRS 0-2),3ヶ月後 60% 64% 65%
日常生活自立(mRS 0-2),1年後 56% 58% 64%
死亡率,入院中 4% 3% 3%
死亡率,3ヶ月後 5% 6% 6%
死亡率,1年後 14% 15% 11%
脳卒中再発率,入院中 4% 3% 2%
脳卒中再発率,3ヶ月後 5% 4% 3%
脳卒中再発率,1年後 8% 5% 5%

NIHSS: National Institutes of Health Stroke Scale, mRS: modified Rankin Scale
recurrence of stroke2022

臨床研究

 臨床現場で得られた知見は,国内の学会や国際学会で発表したり,学術誌に報告したりしています(⇒主な業績).特に,急性期虚血性脳卒中の中でも,いわゆるbranch atheromatous disease(BAD)型梗塞における進行性運動麻痺については,多数例を通して病態解明の研究,各種治療の試行を精力的に行ってきました.ここ数年は,脳卒中再発に関する研究に取り組んでいます.また,脳卒中診療における国内の代表的施設として,下記の通り多くの多施設共同研究や治験に参加しています.

  • THAWS2研究
     睡眠中発症や発症時刻不明脳梗塞でFLAIR陰性患者に対するアルテプラーゼ静注療法の実臨床のおける安全性と有効性を評価する多施設共同観察研究.
  • BAT2研究
     抗血栓療法新時代における脳・心血管疾患患者への経口抗血栓薬の使用実態と安全性を解明する多施設共同観察研究.

  • KOACSレジストリ
     京都地域における経口抗凝固薬服用中の脳卒中患者の多施設共同登録研究.

  • ATIS-NVAF研究

     非弁膜症性心房細動とアテローム血栓症を合併する脳梗塞患者の脳卒中再発予防における最適な抗血栓療法を検討する多施設共同研究.

  • FASTEST試験

     発症早期の脳内出血患者に対する凝固第VII因子投与の有効性と安全性を検証する国際臨床試験

  • SAFE-ICH研究
     
    頭蓋内出血を発症した心房細動患者の早期抗凝固療法に関する安全性と有用性を検討する多施設共同観察研究

  • ACUTE-PRAS研究
     脳梗塞再発リスクの高い急性期アテローム血栓性脳梗塞およびTIA患者に対するプラスグレルとクロピドグレルの比較臨床研究

主な業績(過去3年間)

前園恵子, 他. 脳梗塞と脳静脈血栓症を来した発作性夜間ヘモグロビン尿症の1例. 臨床神経. 62: 27-32, 2022.
Nagakane Y, et al. Attack Interval Is the Key to the Likely Pathogenesis of Multiple Transient Ischemic Attacks. Cerebrovasc Dis Extra. 11: 92-98, 2021.
Yamamoto Y, et al. Atherosclerotic Vertebral Artery Occlusive Disease Predicts Poor Functional Outcome in Medullary Infarction. Int J Phys Med Rehabil. S7: 001, 2021.
藤並潤. がんと脳卒中. 京都府立医科大学雑誌. 130: 795-802, 2021.
Ashida S, et al. Case of an anti-N-methyl-d-aspartate receptor encephalitis patient responding to cyclophosphamide with significant brain volume recovery. Clin Exp Neuroimmunol. 11: 238-241, 2020.
山本康正, 他. 大脳深部の血管構築と皮質下梗塞. 臨床神経学. 60: 397-406, 2020.
山本康正, 他. 塞栓源不明の脳塞栓症:ESUSにおけるDWI高信号パターン判読の有用性. 京都医学雑誌. 67: 51-57, 2020.
永金義成. ラクナ梗塞. Brain Nursing. 487: 63-73, 2020.
小島雄太, 他. 半卵円中心梗塞の機序推定における経食道心エコーの有用性. 臨床神経学. 60: 414-419, 2020.
中島大輔, 他. 早期胃癌に伴う播種性骨髄癌症により脳塞栓症を繰り返した1例. 臨床神経学. 60: 272-277, 2020.
西井陽亮, 他. 脳梗塞で初発した高齢発症血栓性血小板減少性紫斑病の一例. 京都第二赤十字病院医学雑誌. 41: 85-89, 2020.

共同研究に関する論文
[RESPECT Study] Kitagawa K, et al. Hypertens Res. 45: 591-601, 2022.
[THAWS Trial] Miwa K, et al. Int J Stroke. 2021 Aug 3: 17474930211035023.
[SAMURAI Study] Kim BJ, et al. PLoS One. 16: e0258377, 2021.
[SVIN COVID-19 Global Stroke Registry] Nogueira RG, et al. Neurology. 96: e2824-e2838, 2021.
[SVIN COVID-19 Global Stroke Registry] Nogueira RG, et al. Int J Stroke. 16: 573-584, 2021.
[BAT2 Study] Takagi M, et al. Eur Stroke J. 5: 423–431, 2020.
[SAMURAI Study] Tokunaga K, et al. Cerebrovasc Dis. 49: 619-624, 2020.
[THAWS Trial] Koga M, et al. Stroke. 51: 1530-1538, 2020.

スタッフ

 日本神経学会専門医,日本脳卒中学会専門医を含めて5名の常勤スタッフと4名の脳神経内科専攻医,3名の非常勤スタッフが入院・外来診療を担当しています.日本神経学会教育施設,日本脳卒中学会研修教育施設にそれぞれ認定されており,毎月1~3名の初期研修医が脳神経内科研修を選択し,スタッフ・専攻医とともに主に入院診療を担当しています.

職 名 名 前 卒業
年度
専 門 資 格
部 長 Dr_nagakane201610永金 義成 H7 臨床神経
脳卒中
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本神経学会 神経内科専門医・指導医・代議員
日本脳卒中学会 脳卒中専門医・指導医・代議員
京都府立医科大学 臨床教授
医 長 藤並 潤 H18 臨床神経
脳卒中
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本神経学会 神経内科専門医・指導医
日本脳卒中学会 脳卒中専門医・指導医
医 長 德田 直輝 H20 臨床神経
脳卒中
脳血管内治療 
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本神経学会 神経内科専門医・指導医
日本脳卒中学会 脳卒中専門医・指導医
日本脳神経血管内治療学会 脳神経血管内治療専門医
日本脳神経超音波学会 脳神経超音波検査士
医 師 小椋 史織 H24 臨床神経
脳卒中 
日本内科学会 認定内科医
日本脳卒中学会 専門医
日本神経学会 神経内科専門医 
医 師 前園 恵子 H24 臨床神経
脳卒中
日本内科学会 認定内科医
日本神経学会 神経内科専門医 
医 師 清水 夢基 H30    
医 師 村田 翔平 H30    
医 師 東本 祐樹 H31    
医 師 周防 大貴 H31    
非常勤医師 山本 康正      
非常勤医師 濱中 正嗣      
非常勤医師 岸谷 融