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心臓血管外科
ウルフ-オオツカ手術

ウルフ-オオツカ手術とは

心房細動による脳梗塞を予防するための新しい外科治療

人口の高齢化とともに慢性心房細動の有病率は増加し、我が国において将来的には100万人を超える患者が心房細動を発症すると予測されています。一般に高齢者に多いとされていますが、30~50歳代の働き盛りの方が経験することも珍しくありません。
心房細動の問題点の一つに脳梗塞を始めとした致死的な血栓塞栓症の発症があげられます。

心房細動は血流の淀みを生み、これが血栓となって脳梗塞などの深刻な血栓塞栓症を引き起こします。心房細動を放置することは高確率に血栓の発生から脳梗塞などの塞栓性疾患に結びつきます。これらの疾患は致命的であることも多いですが、死を免れたとしても半身麻痺などの深刻な後遺症を招き著しいQOLの低下につながります。

心房細動が原因の脳梗塞は脳梗塞全体の約20%を占め、重い障害を残し予後が悪いといわれています。
心房細動による脳梗塞予防の一つとして抗凝固療法(ワーファリンなどの内服)があります。しかし、時として重大な出血性副作用などのため抗凝固療法の継続が困難な場合、また適切に抗凝固療法をされていたとしても致死的塞栓症を発症する事があります。

心房細動による血栓の多くが左心耳にあるといわれています。心房細動を有する弁膜症、虚血性心疾患における開心術の際に以前から左心耳を外科的に切除または結紮する方法が試みられ、近年有効性が報告されてきました。しかし、これらの方法は心房細動のみを有する患者さん対しては外科的な左心耳の切除は治療の選択肢となることはありませんでした。

一方で、海外の施設において、カテーテル的に左心耳内にデバイスを埋め込み、左心耳を閉鎖することで血栓塞栓症を予防できるか否かが試みられ、ワーファリンの内服治療との非劣勢(ワーファリンの内服と変わらない)が証明され近年国内においても導入される施設も増えてきています。しかし、このデバイスを植え込む時の合併症、特に出血や塞栓症の発症が少なからずあるということと、デバイス自体の価格が高価であるとの問題も指摘されています。

これらの点をふまえて、胸腔鏡下に呼吸器外科で用いられる自動縫合器を用い、左心耳を完全にその根元から切除する手術方法(ウルフ-大塚手術)が開発されました。同方法にて近年心房細動を原因とする血栓塞栓症の発症が予防できることが報告されています。

同方法の有用な点は

  1. 左心耳を根元で切除するために新たな血栓の形成がおこらない
  2. 左心耳の切除は、壁の厚い左心耳の根元で行われるため出血のリスクが極めて少ない
  3. 手術は完全胸腔鏡下で施行が可能で、手術時間が短く低侵襲であるといった点です。

この方法を用いて左心耳を切除された心房細動をお持ちの患者さんのほとんどが抗凝固療法の中止が可能となります。抗凝固療法からの離脱は特に出血のリスクが高い高齢の患者さん、内服薬のコントロールが困難な認知症をお持ちの患者さん、抗凝固療法が原則禁忌の透析患者さん、またスポーツをされるような若年の患者さんにとっては極めて恩恵の得られる治療法であると考えられます。

当院において2019年8月より本手術法が施行可能となりました。
手術は1~2cm程度の小切開を4か所開け、そこから専用の胸腔鏡、鉗子、自動縫合器を用いて行います。手術時間も1時間程度であるため、患者さんにとっては低侵襲であると考えられます。

ウルフ-大塚法には次の3つの効果があります。

  1. 脳梗塞予防効果
  2. 抗凝固治療からの離脱効果:出血性病変(消化管出血など)を持つ方など抗凝固治療が困難な患者さんは言うに及ばず、抗凝固治療によって日常生活に支障がある方や不安をお持ちの患者さんにとって離脱効果は大きいといえます。
  3. アブレーション効果

対象患者さん

心房細動を有し:

  1. 脳梗塞予防のために抗凝固療法を受けているが、出血・貧血などの副作用や高齢・認知症・腎機能障害などの医学的理由(あるいは社会的・経済的理由)により、有効な治療を安定して継続することが難しい患者さん。
  2. 抗凝固療法を今から始める予定、または現在行っている患者さんで、抗凝固薬を減量や休薬した場合に脳梗塞のリスクが高い患者さん。
  3. メジャー手術前にて抗凝固療法の中止を必要とする患者さん。
  4. 職業などにおける抗凝固療法により活動制限をうける患者さん。
  5. その他

最新の抗凝固治療も、最高のアブレーション治療も心房細動性脳梗塞に十分対処することはできずにいるのが現状です。ウルフ-大塚法は左心耳切除する事で抗凝固療法、アブレーション治療における問題点を克服するものであり、アブレーションがうまくいった患者さんにとっても左心耳切除は将来の危険を見据えた追加治療になるといえます。

創部術後1週間