当センターの特色・概要
近年の高齢化に伴い大動脈瘤、大動脈解離の罹患率が増加しています。このため当院では、心臓血管外科を中心に、2018年9月「大動脈センター」を開設し、大動脈疾患に対してより専門的に対応し、診断に必要な検査・評価から手術治療まで一貫して行える体制を整えました。
大動脈瘤をはじめとする大動脈疾患は全身の動脈硬化を伴う場合が多いため、生命予後改善のためには、手術後も動脈硬化促進因子の抑制など、専門的治療が欠かせません。当センターでは、手術のみにとどまらず、血管ドック、術後の動脈硬化進行予防など、総合的な大動脈疾患診療に取り組んでいきます。
特徴
- 大動脈疾患(大動脈瘤・大動脈解離)を専門に扱うセンターです
- すべての大動脈疾患患者を常時24時間受け入れます
- 超高齢者や臓器合併症を持つハイリスク症例にも積極的に対応します
- 診断に必要な検査・評価から手術治療までを一貫して当センターで行います
対象となるおもな疾患
- 急性大動脈解離
- 胸部大動脈瘤(慢性解離を含む)
- 胸腹部大動脈瘤(慢性解離を含む)
- 腹部大動脈瘤
- 大動脈基部疾患
- 大動脈弁疾患
大動脈センターでは、すべての大動脈疾患を対象に手術を行います。手術は診断技術、術式、手術道具及び材料の発達により安全度が高くなってきています。ただし、どんな手術にも危険がまったくないというものはありません。まして、大動脈の手術ですから、手術前には病気、病状、手術の内容・危険性、及び術後の経過や遠隔期の治療法などの説明を十分にする必要があります。
現在、手術を受けたほとんどの方々は日常生活に戻り、職場復帰もしておられます。手術は救命だけではなく、生活の質(Quality of life ; QOL)の向上のためにも有効な治療法ですが、そのためには、時期を失することなく、手術を受けられることをお勧めします。
- 急性大動脈解離に対しては、常時緊急手術に対応しており、全ての診療依頼を受け入れています。
- これまでは手術困難といわれていた超高齢者や臓器合併症を持たれている患者さんに対しても、手術方法、体外循環方法を適切に選択することでより積極的に手術を行っています。
- 腹部大動脈瘤手術では「皮膚切開10cm、手術時間3時間以内」の低侵襲手術が可能です。
- 胸腹部大動脈瘤手術では、当センターの特徴である出血量の少なさの為、合併症発生率が大幅に低下しております。
- 大動脈基部疾患に対しては、自己弁温存と人工弁使用を選択し、胸部大動脈瘤手術においては多くの手術実績のもと、定型的手術を確立しています。
治療について
急性大動脈解離(解離性大動脈瘤)
急性大動脈解離は未治療の場合、非常に死亡率の高い病気です。 激痛を伴い発症した患者さんは、しばしば循環不全や臓器の虚血(血流障害)に見舞われます。適切な手術治療が生命の危機を脱する唯一の手段です。 手術方法は、“胸部大動脈瘤の治療” でご説明する上行大動脈瘤、および弓部大動脈瘤とほぼ同じです。 ただし、血管が非常にもろいことが多く、高度な手術技術が必要です。術後は通常の大動脈瘤よりは、ゆっくりとしたリハビリプログラムを行い、社会復帰を可能にしています。
入院期間はおよそ2~3週間です。 退院後もある一定期間は、慎重な経過観察が必要です。
胸部大動脈瘤の治療
動脈瘤の手術は、動脈瘤を切除し、その部分を人工血管で置き換える方法で行います(人工血管置換手術といいます)。 胸部大動脈瘤は大きくわけて2つの種類があります。心臓に近い部分の胸部大動脈瘤(上行大動脈瘤/弓部大動脈瘤)と、背中の側にある心臓から遠い部分の胸部大動脈瘤(遠位弓部大動脈瘤/下行大動脈瘤)です。
上行大動脈瘤と弓部大動脈瘤は胸の正中部を切開し、人工心肺という器械を装着後、心臓を止めて手術を行います。 この部位の動脈瘤は脳に行く血管の入り口に近いため、この手術で問題となるのは手術中の脳の保護方法です。私たちは、体温を下げて脳に血液を循環させる安全な方法で手術を行っており、現在、脳障害は大幅に減少しました。この種類の動脈瘤手術時間は、およそ5~6時間で、入院期間はおよそ2~3週間です。
手術時間、入院期間は通常の場合であり、これより長くなる場合もあります
遠位弓部大動脈瘤や下行大動脈瘤の手術は、脇の下の肋間(肋骨と肋骨の間)から行います。 この手術にも人工心肺は使用しますが、心臓を動かしたままで手術を行います。手術時間は通常3~5時間程で、入院期間は2~3週間です。
手術時間、入院期間は通常の場合であり、これより長くなる場合もあります。


胸腹部大動脈瘤の治療
胸腹部大動脈瘤とは、胸部から腹部にかけての広範囲に動脈瘤ができている病気です。 胸腹部大動脈瘤に対する手術は、大動脈手術の中でも最も困難な手術の一つと言われていました。しかし、私どもの施設では、この胸腹部大動脈瘤に対しても積極的な手術治療を行っています。
手術は左側方から腹部に達する切開で行います。 体外循環は動脈瘤の部分の血流を迂回させるバイパス回路を使用します。動脈瘤を全長に渡り切除し、全てを人工血管で置き換えます。手術では、下行大動脈から分かれる肋間動脈(脊髄に血液を供給する動脈)、腹部大動脈から分かれる腹腔動脈、上腸間膜動脈、左右腎動脈などの重要分枝血管を再建します。
この手術で問題となるのが手術中の脊髄保護です。 この、脊髄保護が不十分な場合、術後に対麻痺という下半身の神経障害を起こします。私どもの施設では、侵襲、出血の少ない手術方法と、脳脊髄液ドレナージ(背中から脊髄に細いチューブを挿入し、脊髄の血流を改善させる方法)や、脊髄保護剤などの複数の脊髄保護法を組み合わる事で、現在、脊髄神経障害の発生を抑えています。この手術では多くの場合輸血が必要です。手術時間は通常6~8時間で、入院期間は2~3週間です。
手術時間、入院期間は通常の場合であり、これより長くなる場合もあります。


腹部大動脈瘤の治療
腹部大動脈瘤は、およそ臍(へそ)の高さの腹部大動脈に発生します。 直径が45cm以上のものが手術の対象となります。
余病(合併症)の有無や年齢は手術適応(手術をするか否か)には原則的に関係しません。 90歳の方でも手術を受けることができます。
腹部の皮膚を10cmほど切開し手術を行います。 動脈瘤のあった所に人工血管を移植します。手術時間は2時間から3時間程で、ほとんどの場合、輸血の必要はありません。
手術の翌日から食事が始まり、歩行も自由にできます。 通常は約1週間で退院となります。


大動脈基部疾患
大動脈弁輪拡張症、基部異常
大動脈基部とは、大動脈弁とその周辺の大動脈を指します。大動脈弁の周りが拡張してしまう大動脈弁輪拡張症に対しては、人工血管のみを使用し、大動脈弁を修復して拡張を改善させる手術や、人工血管と人工弁を併用した手術などを行います。70歳以下の若年の元気な方には、積極的に大動脈弁を温存して修復する手術を行っております。また、すでに人工弁の手術を受けられていて、人工弁周囲に異常を認める方、大動脈弁から大動脈に異常を認める方などに対しても、大動脈基部の手術を行います。特に、マルファン症候群の方に対しては、この手術が必要となります。

ステントグラフトによる治療
はじめに
2005年より企業製の大動脈瘤治療用のステントグラフトが保険適応となり国内でも使用可能となりました。ステントグラフトはステントと呼ばれる金属のバネの部分とそれを被覆するグラフトと呼ばれる人工血管の部分からできています。胸や腹を切開することなく、足の付け根の動脈からカテーテルを使用し、このバネ付き人工血管を大動脈瘤の部分に留置します。大動脈瘤はそのままですが、瘤の部分には血圧が直接かからなくなりますので、破裂の危険がなくなります。通常の手術に比べ体の負担が少ないのが特徴です。

専門医により適切な診断と治療をおこないます
すべての大動脈瘤がステントグラフトで治療できるわけではありません。また、ステントグラフトはすべての点で手術よりも優れているわけではありません。大動脈瘤の治療を行っている施設の中には、ステントグラフトの治療だけを行い、手術治療をほとんど行っていない施設があります。治療方針がステントグラフトに偏ってしまうと、手術の方が良い場合にもステントグラフトを施行され、最悪の場合には、再手術が必要になり、その手術は初回以上に困難な手術となってしまうこともあり、ステントグラフト治療と手術治療の両方をバランスよく行っている施設で、適切な診断、治療を受けることが大切です。
京都第二日赤大動脈センターでは専門の心臓血管外科医、循環器内科医があらゆる角度からステントグラフトの可能性を検討し、治療方針を決定しています。

ステントグラフト治療の選択には専門的な知識と判断が必要です
ステントグラフト治療には解剖学的適応と言われる適応条件があります。当センターでは一人一人の患者さんの状態を詳細に検討し、その患者さんにとって最良なステントグラフト治療(オーダーメイドステント、手術との併用など)を行っています。このため他の病院でステントグラフトが困難、あるいは不可能であるといわれた患者さんに対しても適切な対応が可能となっています。 腹部大動脈瘤の前向き比較試験で、術後4年間での動脈瘤関連死は外科手術よりもステントグラフト治療の方が有意に低いことが証明されています(Lancet 365:2179,2005)。10年前と比べると最近のステントグラフトでは改良され、治療成績も格段に向上しています。ただし、この治療の歴史は10数年程度であり長期の成績は不明です。

ステントグラフト治療の長所を活かすことが大切です
大動脈瘤の形や場所によっては、ステントグラフト治療のほうが手術治療よりも良い場合もあれば、逆の場合もあります。京都第二日赤大動脈センターの治療方針としては、患者さんの全身状態を正確に評価し、手術治療がよいのか、ステントグラフト治療がよいのかを専門の医師が判断しています。他の病院でステントグラフト治療が困難と診断された場合にも、専門外来で患者さんの相談に応じております。
検査
最新の画像診断装置によって、短時間で正確な診断ができるようになりました。とくにthin slice 造影CTが重要です。
胸部X線
簡単に胸部大動脈の拡大がわかるとともに、肺や心臓のチェックもできます。
超音波エコー
胸壁から超音波を当てる検査と、食道の中から胸に超音波を当てる検査を組み合わせれば、胸部大動脈瘤はほとんど診断できます。 このほか、大動脈弁閉鎖不全や心嚢液がたまっているかどうか、心機能はどうかなども同時に検査することができますし、大動脈解離の場所や状態も診断できます。腹部に超音波をあてる検査では、腹部大動脈の“こぶ”や解離の診断が可能です。
CT
エコー同様、重要な検査です。CTの利点は、安全で、しかも迅速な診断ができ、患者さんに負担がかからないこと、しかも普及した装置なので多くの病院で診断ができる点にあります。この検査で大動脈瘤の大きさ、範囲、周囲の臓器の状態、さらに解離があれば、その形態や範囲など多くの情報が得られるのが特長です。最近では3次元の画像が得られるようになって、“こぶ”の状態がいっそう把握しやすくなっています。
血管造影
エコーとCT検査の登場で血管造影の占める役割は変化しているものの、依然、重要な検査であることに変わりはありません。しかし、血管造影は、患者さんに身体的負担が大きいので、急を要する場合には省略することが多くあります。
磁気共鳴映像法(MRI)
磁気を使って画像を得る検査です。特長は、どの方向からも画像が撮影できる、エックス線被ばくがない、より鮮明な画像が得られることです。 ただし、強力な磁場が必要なので、ペースメーカーや人工呼吸器を使っている患者さんでは検査ができませんし、検査に時間がかかりすぎる制約もあり、大動脈瘤の診断に必須ではなく、補助的な検査といえます。
基本的にはエコー、CTが必須で、その他の検査を組み合わせるのが一般的です。